石川県能登地方に伝わる「いしる・いしり」は、イワシやイカで作る魚醬(ぎょしょう)。しょうゆに似た調味料だが、魚介ならではのうまみを持つ。その製造技術は近々、国の登録無形民俗文化財になる見込みだ。
この地方で生産量が最多という能登町のヤマサ商事。社長の山崎晃一さん(49)は「文化財というと消えかけている印象ですが、そうではないですよ」。倉庫には、材料を仕込んだ大だるがぎっしり並ぶ。スルメをあぶったような、香ばしい匂いが漂う。
たるは繊維強化プラスチック製で、容量は2500リットル。イワシなら丸のまま1500キロ入れ、塩を500キロ加える。発酵を進めるために途中でこうじを少量入れるが、基本は魚介と塩。1年ほど置くと魚が分解され、下に液体がたまる。それを取り出して煮沸し、出荷する。
魚醬は古代ギリシャ・ローマ人も使ったといい、しょうゆの原形の穀醬(こくしょう)より歴史が古い。国内では、平安時代の「延喜式」に魚醬らしい記述がある。かつては各地の沿岸で製造され、明治以降、大豆を使うしょうゆが普及するにつれて廃れたという。
能登のいしるの起源は不明だが、江戸時代には作られていたようだ。元々、輪島などの外浦では主にイワシ、内浦ではイカの内臓を原料にした。秋田県のしょっつる、香川県のイカナゴしょうゆと共に「日本三大魚醬」と呼ばれる。
昭和初めごろの暮らしを記録…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル